定期的に人外を描きたくなります。
PROJECT MOONが開発したゲーム『Lobotomy Corporation』に登場する「アルリウネ」のドット絵を描きました。
Lobotomy Corporationは「アブノーマリティ」と呼ばれる存在(実体は怪物や超常現象など様々)を管理するゲームです。
アルリウネはゲーム中に登場するアブノーマリティの1体になります。
記事後半では水平方向に360度回転するアニメーションの作画手順を書きました。
アルリウネを制作するにあたって実際に使った方法です。
ぜひ見ていってください。
『Lobotomy Corporation』から「アルリウネ」のドット絵
タイトル:『アルリウネ』
制作時期:2020年6月~7月
アルリウネは上から2番目のリスクレベルWAWのアブノーマリティです。
Lobotomy Corporationでは職員に指示してアブノーマリティに作業をおこないゲームを進めていきます。
アブノーマリティのリスクレベルが高いほど作業が困難です。
アルリウネは仕事を見る目が厳しく職員がいい仕事をし過ぎても機嫌を損ねて脱走します。
良くも悪くもない無難な作業結果を出さないといけません。
この圧倒的な脱走頻度がリスクレベルWAWの所以でしょう。
日が経つごとに管理対象のアブノーマリティが増えていくゲームですが、なるべく引き当てたくないアブノーマリティです。
コンセプト
キャラクターの回転がコンセプトです。
そういったドット絵をtwitterなどで見かけるたびに挑戦したいと思っていました。
一度はやってみないとどんな技術が必要かわかりませんからね。
また、Lobotomy Corporationは2Dゲームなのでキャラクターを一定方向からしか見られません。
回転させる価値も高いのではないでしょうか。
せっかくなので回転させがいのあるアブノーマリティ、馬のような独特なフォルムを持つアルリウネを選びました。
各ドット絵の説明
アルリウネ
Lobotomy Corporationでは、我々プレイヤーは「認識フィルター」を通してアブノーマリティを見ている設定です。
どんなにヤバい外見のアブノーマリティでもフィルターを通して見ると、変わったぬいぐるみ程度の認識で済みます。
このアルリウネは私のフィルターを通して少し女性的になっていますが、ゲーム中の彼女はもう少しだけ怪物的です。
フィルターを通さない現実の彼女はどんな見た目なんでしょうかね。
アルリウネは精神を蝕むタイプのアブノーマリティなので、想像以上のバケモノなのかもしれません。
体がセラミック製らしいです。
テカリを入れた方が素材感が出てよかったと反省しています。
職員
脱走したアルリウネはテレポートで施設内を飛び回ります。
彼女に出くわした職員の末路がこれです。
背景に配置するために暗い色にしています。
水平回転するキャラクターを描こう
回転するドット絵アニメーションの制作自体はシンプルです。
各方向を向いたキャラクターを順番に表示させるだけです。
枚数が多いほどなめらかにアニメーションします。
今回は真正面、真横、真後ろ、ナナメ向きの計8枚のコマを描きました。
作業量、出来上がるアニメーションのなめらかさ、描き込みの難易度を踏まえるとこの辺りがバランスのいい枚数かなあと思います。
さて、難しいのはアニメーションの構成ではなくそもそもドット絵を描くこと。
まずは何が難しいのかはっきりさせてみましょう。
回転アニメーションの難しさ
難しいポイントを把握しておくと、いざ行き詰ったときに解決方法を考える助けになります。
私が感じた難しさは以下の2点です。
- ナナメ方向の絵をうまく描けない。
- きれいに回転しない。
順番に見ていきましょう。
ナナメ方向を向いた絵をうまく描けない
ドット絵は真正面や真横といった対象を真っすぐに捉えた角度を描く方がはるかに簡単で、そこから外れると難易度が上がります。
なめらかに回転させるにはナナメ方向を向いたコマが必要不可欠ですが、ナナメ方向のキャラクターを描くには一定の画力が求められます。
角度がつくと、図形で形容できない歪んだドット配置が増えていきます。
リカバリーのためにドットの配置量も多くなり、洗練さや色合いが損なわれやすいのです。
また、アニメーション枚数も難易度に影響します。
以下の画像をご覧ください。
正面から左向きに移行する3枚の画像を重ねたものです。
ナナメ向きの画像は45度の向きで描こうとしたコマですが、45度になっているか怪しい印象です。
しかし、そうだとしても成り立ちます。
というのも、今回のような8枚アニメーションならば正面から真横に至るまでの中割り画像は1枚なので、ナナメ向きに見えさえすれば実際の角度がどうあれ使用に耐えうるのです。
では、もっとなめらかに回転させようと正面から真横に至るまでに3枚の中割り画像を挟むとしたらどうでしょう。
1枚あたりに許される角度の範囲が小さくなりますよね。
例えば、ナナメ45度向きの画像がすでにあるとして、正面からナナメ45度に至るまでの中割りで許容される向きは1度~44度の範囲です。
正面や45度に近い角度では変化が少なくコマを増やす意味がないので、現実的には中間22.5度付近の中割りをきっちり描ききらなければならないでしょう。
先ほどの「ナナメ方向に見えればそれでよい」状態よりも高い精度での描き込みを要求されます。
きれいに回転しない
パーツのサイズや位置関係の整合性がとれていないと回転が不自然に見えやすいです。
以下のアニメーションをご覧ください。
左横向きになった際に、頭部の葉っぱがグンッと手前にせり出てきたように見えませんか?
左横向きの葉っぱのサイズだけ縦1ドット大きいのでそう感じるのです。
これは極端な例ですが、実際は体の厚みや髪の広がり方、手足の付け根の位置など分かりにくいところでこうしたコマ間の差が発生します。
そして回転させたときに「急に太ったな?」なんて不自然に見えるのです。
今回は該当部分をわざと大きくしているので誤りは1コマと分かっていますが、8コマのうち4コマだったらどうでしょう。
1枚直しただけで不自然さは解消されません。
どちらのサイズに寄せるかを決めて修正しないと再修正になる可能性があります。
1枚のドット絵を見ているだけでは気付かないのがやっかいなところです。
回転のポイント
自然な回転に見せるには、キャラクターの向きが変わっても各部のサイズ感や位置関係が変わって見えないようにすることです。
よって、向きが変わった各パーツがどのように見えるかを把握するのが重要です。
『アルリウネ』の制作ではアタリをつけるために
- 補助線
- 簡略化したモデル
を用いました。
補助線の例です。
各パーツのサイズや位置をコマ間で統一する目印になります。
モデルの例です。
上から見たアルリウネを簡略化したものです。
緑が帽子のツバ部分、ピンクが本体を表します。
このモデルを回転させるとナナメ向きを描く目印になります。
回転したキャラクターの見え方をモデルで探りながら高さやサイズの整合性を補助線で確保し、ドット絵を描いていきます。
モデルを使わず、真上から見たフカンドット絵を描き込めるならそれに越したことはありません。
ただし、そういったドット絵は水平方向の回転アニメーションには使用しないので完全な裏作業になります。
『アルリウネ』では作業効率を考えて簡略化したモデルを使いました。
必要に応じてモデルを実体に近づけるなど中間をとるのがいいでしょう。
回転アニメーションの作画手順
大変お待たせしました。
『アルリウネ』での回転アニメーションの作画手順を説明します。
大まかな流れは以下の通りです。
- 基本の向き(正面、真横、背面)を描く。
- 真上から見たモデルを描く。
- モデルを回転する。
- モデルを目印にしてナナメ向きを描く。
- 左右非対称部分を描く。
各項目を説明していきます。
基本の向きを描く
真正面、真横、背面を描きます。
補助線を使い、各パーツのサイズや位置が合うように描いていきます。
正面から見える背面側のパーツ、背面から見える正面側のパーツも忘れないように描き込みましょう。
キャラクターデザインによっては真横でも同様の描き込みが必要です。
これらはナナメ方向を描くベースになる絵ですから納得できる完成度を目指します。
「納得できる完成度」とはドット絵の上手い下手ではありません。
頭身やデザイン、雰囲気といった基本的な部分で気に入らない箇所がないことを指します。
何せ全コマの整合性をとりながら描いていますので、後になって「リボンの位置が気に入らない」とかなると全コマ修正の大惨事です。
例えば美人な雰囲気にしたいなら、この時点で美人に見えるように描きましょう。
真上から見たモデルを描く
真正面、真横のドット絵を使い、真上から見たアルリウネのモデルを描きます。
ここは少し手を抜いて、四角形で簡略化したモデルを作ります。
四角のモデルが実体とかけ離れていて形状をイメージしにくいと感じたら、モデルを実体に近づけていきましょう。
これから脚の付け根を描くことを想定し、このモデルでは脚の太さの目印を加えています。(12個の茶色ドット)
ナナメ向きキャラクターを描くとき起点にしたいパーツの目印をつけるといいでしょう。
モデルを回転する
モデルを左に45度回転させます。
ドット絵ツールの回転機能を使いました。
これで理論上はナナメ前45度を向いたアルリウネを真上から眺めている図になります。
ドット絵制作における回転機能は中間作業用の機能と考えてください。
見ての通りドットが崩れますので、出力結果をそのまま作品にすることはあり得ません。
モデルは作業用ですし、ドットが崩れても目印さえ判別できればいいというスタンスなので使っています。
モデルを目印にしてナナメ向きを描く
回転させたモデルから補助線を引き、ナナメ向きのキャラクターを描いていきます。
このモデルには脚の付け根の目印をつけていますから、脚の太さの目安になるわけです。
帽子のツバの先端位置も分かりますね。
正面と真横の画像を並べて横軸の整合性も取っていきます。
勘のいい方ならお判りでしょうが、このモデルでは頭のサイズや胴体の凹凸など、ほとんどの情報がわかりません。
まずは1つのモデルで大雑把に全体を描きアニメーションさせてみる。
不自然な個所を発見したら修正したい個所の目印を付けたモデルを作成。
同様の手順でモデルから補助線を引いてドット絵を修正。
このようなことを繰り返していました。
左右非対称部分を描く
回転アニメーションでは画像の流用がききます。
左向きの画像を左右反転すれば右向きとして使えますので、正面と背面以外の画像は2枚分といって差し支えありません。
流用可能なパーツとそうでないパーツのレイヤーを分けておくといいでしょう。
黒枠部分が主な左右非対称パーツです。
これをそのまま左右反転すると回転時におかしなことになります。
アルリウネ本体を流用した上で、葉っぱや花びらを追加・修正していきます。
この時も補助線で大きさや高さを合わせるのを忘れないようにしましょう。
反省
今回、簡単なモデルを使ってアタリをとる方法で『アルリウネ』のナナメ向きドット絵を描きました。
四角いモデルだと情報量が不足しがちで目印をつけ直す作業が繰り返し発生し、スマートに制作できたとは言えない結果です。
これならフカンのドット絵を描き込んだ方が素直だったかもしれません。
一方、アルリウネの形状が複雑だったからという思いもあります。
もう少し単純な形のキャラクターなら簡略化したモデルで問題ないのではと。
ただ、単純な形状ならフカンのドット絵を描いても大した手間じゃありません。うーん。
いずれにしても作品の完成まで漕ぎ着けましたし、アタリをとってナナメ向きを作画する考え方は間違っていなかったのではないかと思います。
まとめ
回転アニメーションの作画はコマ間の整合性が重要です。
各パーツのサイズや位置、ナナメ方向で奥行が発生した際の見え方に重点を置いて描きましょう。
補助線とモデルを使用してキャラクターが回転するアニメーションを作画できました。
効率化のつもりで簡素なモデルを用いましたが、キャラクターをフカンしたモデルをきちんと作った方が効率や精度が上がる可能性を感じています。
ナナメ向きのドット絵はやっぱり難しいと再認識しました。
そして、格闘ゲームのような派手なモーションよりも回転アニメは繊細です。
ちょっとしたことでも粗が目につきます。
今回は低コストの手法で描いてイマイチ感があったので、中間作業用のフカンドットを描き込む正攻法(?)を試してみたいと思っています。
真上から見たデザインを明確にできる利点がありますしね。
一緒に上達していきましょう。