2023年ホラー企画の第7弾。
9月に入ってしまいましたが、いよいよこれが最後です。
トリもきっちり有名どころをと、ホラー漫画界の巨匠・伊藤潤二(いとう じゅんじ)さんの作品を題材にしました。
伊藤潤二さんといえば少し前に世界的人気TCG『マジック:ザ・ギャザリング』とコラボして話題に。
まさか自分がプレイしているカードゲームのイラストを描いてくれるとは夢にも思わず、喜びよりも驚きが勝ってしまいました。
そんな大事件があったことからホラードット絵企画で必ず取り上げようと決めていた題材です。
ぜひ見ていってください。
この記事およびドット絵には漫画『首吊り気球』のネタバレを含みます。
未読の方はご注意ください。
伊藤潤二さんが描くホラー短編漫画『首吊り気球』
タイトル:『首吊り気球』
制作時間:41.0時間
伊藤潤二さんは日本のホラー漫画家。
突飛過ぎてシュールなギャグに見えなくもない個性的な舞台設定が氏の漫画の魅力です。
グロ要素も満載。
代表作は映画化もされている『富江』シリーズなど。(Wiki調べ)
私が氏を知ったきっかけは『ギョ』という漫画でした。
ギョの単行本に収録されていた「自分とぴったりサイズの横穴に誘われる漫画」が特にインパクト大。
いまだにオチまで覚えています。
ギョの方も相当で、作風を理解するには十分でした。
首吊り気球
『首吊り気球』は伊藤潤二さんのホラー短編漫画。
複数の作品集に収録されているのでご存じの方も多いでしょう。
首吊りロープがついた気球のような飛来物によって人々が絞首刑に処されていくストーリーです。
気球は実在人物の頭部をかたどっており(というより巨大な生首そのもの)、本人だけを狙います。
気球が破壊されると人間側も死ぬというたちの悪い性質を持っているため、逃げるしか対処法がありません。
知能もあるようで本人と同じ声で語りかけてきます。
目的や出現理由は一切明かされず。
理不尽かつちょっとシュールな、伊藤潤二ワールド全開の作品です。
余談ですが2021年に人の頭を模した気球型の現代アート作品が飛ばされていました。
SNS上では首吊り気球だと盛り上がっていましたよね。
ドット絵の説明
この作品は『首吊り気球』のラストシーンを再現したドット絵です。
窓をたたく弟・洋介を部屋に迎え入れようとする主人公・和子を描いています。
弟は必死なようですが、頭上に目を向けてみると……?
首吊り気球
シーンに関わる人物の気球(和子・洋介)を大きめに作画。
和子気球は待ち伏せ中、洋介気球は吊り下げた死体を使って窓をたたいています。
遠景には空を覆いつくす気球たち。
出現から時間が経過しているため人を吊った気球が多めになっています。
窓をたたくシルエット
窓をたたいているのは主人公の弟・洋介の首吊り死体です。
気球が洋介をかたって和子に窓を開けさせようとするシーン。
窓に死体を当てて本人がノックしているように見せかけているわけです。
ドット絵はもうちょっと乱暴に。
死体を窓にぶつける動きにしました。
気球が死体を動かす方法は振り子運動で、生きた人間がするノックより雑になるかなと。
こんな風にたたかれたら用心して絶対に開けないでしょうけど(笑)
各種カラーリングとデザイン
カラーリングはアニメ準拠。
『首吊り気球』はNetflixでアニメ化されています。
服やカーテンの色の参考にさせていただきました。
和子は黒髪ロングだと思い込んでいたので明るめの茶髪だったのは意外です。
室内の物品はアニメ・漫画の両方からいいとこ取り。
例えば漫画だと窓にレースカーテンがありません。
ドット絵を制作するうえで不都合だったのでアニメからの採用。
画面レイアウト
ドット絵のレイアウトは上半分が屋外、下半分が屋内になっています。
『マジック:ザ・ギャザリング(MTG)』のカード枠デザインをオマージュしました。
これは冒頭で述べたように、氏のイラストがMTGで使われたことを受けてのもの。
MTGのカードはイラストとテキストで約半分ずつエリアが分かれています。
まあ、分かりにくいですよね。
[制作記事]首吊りの描写をマイルドにしよう
全年齢を対象にしたドット絵を描く場合、残酷描写の程度をどうするかが悩みです。
あまりに直接的だと制限なしでの公開が不適切だと思う一方、表現を抑え過ぎて本来の魅力が損なわれるのも避けたいところ。
そもそも全てひっくるめて魅力的だからドット絵にしているわけで、基本的には残酷成分もきっちり含める方針でいます。
今回の題材にはタイトル通り「首吊り」の要素が存在。
派手なスプラッターよりよっぽど現実味がありますから、直視したくない人もいるでしょう。
ハードな見た目にならないように気を使う必要があると考えました。
ここでは首吊りの衝撃を和らげるために実践したポイントを説明します。
視覚的に過激でない構図を選ぶ
まず、見せるのがためらわれる構図をそもそも選ばないことを前提にしました。
例えば和子と洋介の気球は大きく作画しています。
気球全体を画面内に収める構図を選んだなら、ロープ先端にぶら下がる死体もはっきり目視できるサイズで描写することになるでしょう。
死体を画面内に大きく描くのはさすがに避けたいと思いました。
そこで今回は、屋内のドット絵で死体部分が隠れるように気球を配置。
見切れた気球は口元だけを画面内に残し、不気味な笑みを見せる構図にしました。
漫画のラストシーンにもつながって、いい具合になりました。
レースカーテンでぼかす
画面に最も近い位置にある死体は外にいる洋介です。
漫画では窓を挟んだシルエットで表現されていました。
ドット絵も同様にシルエットを使用。
アニメ版だとレースカーテンを用いていたのでそちらを採用しています。
本来なら結構なアップサイズになるはずの死体がぼやけてマイルドに。
ちゃんと首吊り死体であることも重視したかったので、うっすらとロープが見えるようにしています(赤枠)。
遠くに配置して直視させない
ラストシーンはほとんどの人が吊られてしまった状態。
死体をぶら下げた気球が多くなっています。
まともに描けば空一面死体だらけになってしまうでしょう。
しかし、そこはドット絵。
遠く離れるほど解像度が低くなって詳細な描き込みができません。
使えるのは多くて10ドット程度になります。
今回はこれを逆に利用。
和子・洋介以外の気球を全て遠方に寄せました。
こうなれば死体は全て極小。
数がいくら増えてもショックは少ないでしょう。
首吊りを補強できるアクセントを加える
さてさて、表現をマイルドにするためにいろいろとやってきたわけですが、懸念がひとつ生まれてきます。
「気球が絞首刑を狙っている」ことが伝わりにくくなっていないでしょうか?
直接描写を避ける方針で進めてきたので当然です。
対策として、気球に首吊り用の輪っかがついていることを示すために左上にロープ先端を追加。
上にも気球がいるイメージです。
頭部とは別ベクトルのアニメーションを増やせるのでアクセントにもなります。
伊藤潤二さんの漫画について、この記事では怖さと個性的な舞台設定にフォーカスして触れてきました。
実際はホラーと笑いの境界線上を攻めるような表現が意図的に取り入れられているので、恐怖を感じながらもかなり面白いです。
『首吊り気球』だけで見ても
- 気球同士の誰得キスシーン
- なぜかボウガンを所持している一般男性
- 殺人気球が待ち構えていることを承知で出社しようとする父親
といったツッコミどころが多数。
知っていればネタとして会話のつかみで役に立つかも?
未読の方はぜひ読んでみてください。
『首吊り気球』以外もおすすめですよ。
それでは今回はここまで。
次の記事でお会いしましょう。