私はいくつかのドット絵を並行で制作していて、完成したものから公開しています。
早く着手したものの行き詰まってしまい後発のドット絵が先に出ていく、なんてことは珍しくありません。
今回公開するのは漫画『からくりサーカス』のドット絵です。
Twitterの企画に参加した作品も同漫画に登場する「バス・ナッシュ」を描いたもの。
題材を『からくりサーカス』に決めたとき、元々は今回のドット絵を計画していました。
制作が難航したこと、他キャラクターに目移りしたこと、Twitterで良い企画を発見したことで順番が前後し、「バス・ナッシュ」が先に完成したという背景があります。
本当は今回のドット絵に登場するキャラクターこそが『からくりサーカス』を描こうと決めた理由なのです。
「バス・ナッシュ」に引けを取らない魅力的なビジュアルをしたキャラクターですので、ぜひ見ていってください。
『からくりサーカス』から自動人形「スカスパー」「ゲーラン」のドット絵
タイトル:『スカスパーとゲーラン』
制作時間:18.7時間
『からくりサーカス』は週刊少年サンデーで連載されていた、藤田和日郎(ふじた かずひろ)さんの漫画作品。
人類と自動人形(オートマータ)の戦いを描いた物語です。
「スカスパー」および「ゲーラン」は人類の敵である自動人形サイド。
物語の終盤に登場しました。
子供を踏みつぶそうとしていたところを主人公に瞬殺される役回りで、悪い言い方をすればかませ犬です。
横に引き伸ばしたような大きな顔のスカスパー、板状の仮面のような頭部を持つ巨漢道化のゲーランと、強烈な見た目のコンビでした。
後半の自動人形はどれも強力なので、相手が悪すぎただけで両名それなりに凶悪性能のはず。
一般的なしろがね(自動人形の敵対勢力)と戦っていたらどれほど厄介だっただろうと想像が膨らむ点もグッドですね。
元々はスカスパーとゲーランを描きたいと思って『からくりサーカス』を題材に選択しました。
しかし作画がうまくいかず、魅力的な他の自動人形に目移りしていたところで参加できそうなTwitter企画を発見。
企画のテーマに合致しつつビジュアルが好みだった「バス・ナッシュ」を優先し完成が後回しになった、というのがこのドット絵の裏話です。
ドット絵『スカスパーとゲーラン』
劇中と同様にスカスパーとゲーランを2名セットでドット絵にしました。
現場にたまたま居合わせただけでコンビ設定は存在しないとは思います。
シルエットの前面にデフォルメしたキャラクターを配置。
スカスパーが縦方向でゲーランが横方向と、動きを対比させました。
どちらの自動人形もアニメ未登場、漫画はカラーページなしで色に関する資料がありません。
そのため私の想像で色を塗っています。
特にゲーランはピエロのような派手な衣装だろうということで、奇抜な配色にしました。
漫画から色を考える場合、ベタ塗りの黒を何色と判断するかが非常に難しいですよね。
キャラクター紹介
『からくりサーカス』未読の方もいらっしゃると思うので、それぞれの自動人形を簡単に紹介します。
スカスパー
横に伸ばしたような大きな顔を持つ自動人形。
米軍兵士の死体を振り回して殴ったり主人公をわしづかみにしようとしていたので、腕力にものをいわせる戦闘法だと思われます。
主人公に一撃で破壊されました。
ゲーラン
板状の仮面がそのまま頭部になっている自動人形。
スカスパーと共に主人公に突撃していったので、主な攻撃手段は手のかぎ爪でしょう。
主人公に一撃で破壊されました。
こだわりポイント
背景のスカスパーシルエットにはまばたきアニメーションをつけています。
画面の中央が寂しく見えないための工夫です。
自動人形には「ある人物を笑わせる」目的があるため、殺傷能力とは裏腹にかわいい見た目やギミックを搭載しています。
スカスパーの目にはきちんとまぶたがあり、表情を変えられるようです。
漫画最終話のカーテンコールで登場したときにはニッコリ笑っていました。
人間とは違い上下から閉じる機構になっているのを見ると「ああ、やっぱりおもちゃっぽく作られているんだな」と自動人形の造形に感心するばかりです。
「動く静止画」タイプのドット絵とは?
日々のドット絵を制作する上で、私には基準にしているフォーマットがあります。
それが「動く静止画」です。
- ドット絵を継続的に描く。
- アニメーションの練習をする。
上記2つの目的を達成するために「動く静止画」を最低ラインに設定しました。
「合法ドラッグみたいに矛盾した言葉をいきなり使い始めて、何言ってるんだこの人」と思われたでしょうか。
手間を度外視するならば、動かしたいと思った個所を全て動かした方がすっきりするに決まっています。
しかし作品を完成に漕ぎ着けるには制作範囲を決めておくのが必須。
アニメーション練習をしつつも作品を継続的に発表したい私が定めた基準が「ゴリゴリのアニメーション作品ほどは動かさない、静止画に近いドット絵」、すなわち「動く静止画」です。
静止画の定義とは?
ドット絵でいう静止画とはどんなものでしょう。
説明するまでもなく動いていないドット絵を指します。
ドット絵『スカスパーとゲーラン』が静止画だったら以下のようになるでしょう。
アニメーションの1コマを抜き出したイメージです。
これだとデフォルメキャラクターがいかにも「動きそう」な印象を受けるので、分かりやすくするため背景のみを取り出します。
これももちろん、動いていないので静止画です。
動く静止画とは?
先ほどのドット絵を見て「動いていないから未完成」とは思いませんよね。
しかし「動いていたらもっと雰囲気が出る」と感じるのも事実。
例えば火の粉なんかは上方向に舞い上がって動いた方が、らしく見えるでしょう。
そうすると「静止画で十分なんだけれども見栄えや表現をより強化する目的でアニメーションを追加する」という発想が生まれてきます。
それが「動く静止画」の考え方です。
私は「静止画寄りのドット絵」「描き込み寄りのドット絵」なんて別の言葉もよく使っています。
画像の遠景と火の粉を動かし、まばたきを追加。
「動く静止画」のフォーマットにしてみました。
実際のところ、どこまでが静止画寄りかは人それぞれ。
動いていれば静止画寄りも何もないという意見はもっともですし、私もそう思います。
アニメーション作品の中でさらに分類されているイメージでしょうか。
私自身の判断基準として思いつく条件が1つあります。
それは、描きたいものを静止画だけで表現しきれるか否か。
先ほどの「動く静止画」ですが、どのコマを見ても受ける印象は同じです。
シルエットのキャラクター、立ち上る火の粉、赤い背景、そしてそれらの組み合わせから受ける印象。
これらの要素はアニメーションの有無にほぼ左右されません。
静止画で十分に表現できているものを、アニメーションを加えることで補強している。
「動く静止画」はそういうドット絵が多いと感じています。
じゃあ「動く静止画ではないドット絵」は?
「動く静止画ではないドット絵」のアニメーションはどんなものでしょう。
私は、画像を動かすことで意味が発生するドット絵だと思っています。
動かして表現するという前提で制作されている作品です。
私は「アニメーション寄りのドット絵」という言葉をよく使います。
外観上の違いで区別するなら、抜き出したコマによって受け取る内容が変わるか否か。
例えばゲーランのドット絵。
左右に体を揺らすモーションです。
これは取り出したコマによって意味合いが変わってきます。
左の画像を見せられたら直立したポーズを取っていると判断するでしょう。
右だけなら体をスライドさせたポーズ、でしょうか。
単体のコマを見せられてもキャラクターが何をしているのか特定できません。
見せられたコマによって受け手の解釈が変わります。
一連のアニメーションを見ることで、「体を左右に揺らしておどけているんだな」などと理解できます。
静止画の反対語は「動画」ですが、ドット絵を動画と呼ぶのは少し違う気がするので、ここでは「動くドット絵」という言葉を使っています。
今回の作品はハイブリッド
ここまでの話を総合すると、今回のドット絵『スカスパーとゲーラン』は「静止画寄りのドット絵」と「アニメーション寄りのドット絵」のハイブリッドということになります。
背景は静止画寄りの考え方、デフォルメキャラクターはアニメーション寄りの考え方で制作しました。
メインはデフォルメキャラクターの方ですから、総合的にはアニメーション重視の作品になります。
静止画寄りのドット絵について説明しておきながら作品自体はアニメーション寄りというオチでした。
ドット絵を制作していると必ずしもきれいに分類できないことがほとんど。
それでもその時々によって「これは全体的に静止画寄りだな」なんて考えながら描いています。
正しいかはさておき。
どんなタイプの作品を描いてきたのか実績をたどるのに役立つので、自分基準でドット絵を分類してみるのはおすすめです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
最後は等倍のドット絵でお別れです。
それでは!
「いんやァおれにはよくきこえなかったぜえ、スカスパー。」
「ゲーラン、くたばりぞこないが鳴いたような気がしただけかなァ…」