『マジック:ザ・ギャザリング(MTG)』には「パウパー」というコモンカード限定のフォーマットがあります。
コモンと聞くとカードパワーの低さが気になるところですが、MTGの長い歴史において収録された全カードを使えるので下手なレア入りデッキより強い場合もあるとのこと。
私は紙でもデジタルでもパウパーをプレイしたことがないものの、意外なカードが使われているのを発見するのが好きなので対戦動画は定期的に視聴しています。
先日、見覚えのあるカードが採用されているコンボデッキを発見。
デッキコンセプトとして成立するのかと驚いてしまいました。
フォーマットが変われば戦略も変わる。
MTGの奥深さを改めて知った次第です。
感動のあまりそのデッキのキーカードをドット絵にしたので、ぜひ見ていってください。
『マジック:ザ・ギャザリング』から、裏返しコンボパーツ「不屈の部族」のドット絵
タイトル:『不屈の部族』
制作時間:18.8時間
「不屈の部族」は『オデッセイ』に収録されていたコモンカード。
パウパーにおいて「裏返しコンボ」デッキのキーカードとして採用されていることが分かりました。
私はオデッセイが販売されていた時期にMTGをプレイしていたのでパックをかなり開封していたものの、イラストをなんとなく覚えている程度。
衝撃の再会です。
これ実用レベルなの?
不屈の部族は手札を1枚捨ててタフネスを上げる能力を持ちます。
- ドローサポート系のカードで手札を増やす。
- カードを捨てて不屈の部族のタフネスを強化。
- パワーとタフネスを入れ替えるカードでタフネスをパワーに。
- 回避能力を付与してワンパン。
というのがコンボの流れ。
他の構築フォーマットだとあまり選ばれない勝ち手段ですよね。
確かにコモン環境なら全体除去はないですし、不屈の部族ならカードを1枚捨てるだけで稲妻をはじめとする赤の呪文に対処できます。
動画では防御系カードとドローサポートでワンパンのプレッシャーを相手にかけ続け、想像以上に戦えるデッキでした。
やっぱりMTGってフォーマットごとに様相が違って面白いなあ。
余談ですが、入れ替え処理の正確なルールを初めて知りました。
1/21の不屈の部族のパワーとタフネスを入れ替えて21/1にしたとします。
ここでタフネスを+4したらどうなるでしょう?
25/1になるそうです。
私はずっと21/5になると思っていました。
皆さんはどうでしたか?
ドット絵『不屈の部族』の説明
不屈の部族のカードに「裏返しコンボ」の要素を盛り込みました。
時間経過でタフネスが4ずつ増えていき
プレイヤーのライフ量20を上回ったところでパワーとタフネスが入れ替わります。
反転時の演出は入れ替えカード「裏返し」成分。
青赤の混成マナにちなんでカード枠が一瞬だけ青・赤に変わります。
こだわりポイント
「裏返し」でパワーとタフネスが「反転」することから、カード自体を反転する演出を加えています。
実物のカードを裏返すと(裏面の印刷で見えないけど)ドット絵と同じ構図になるダブル・ミーニングも。
なおパワー・タフネスだけ反転していないのは、数値が読みづらくなることでワンパン力が分からなくなってしまうことへの対策です。
砂嵐をそれらしく見せるための表現
我々は飢餓を乗り切り、ドワーフの襲撃を乗り切り、熱射病も乗り切ってきたんだ。
これっぽっちの砂嵐が何だ。
上の文章は「不屈の部族」のフレイバー・テキストです。
逆境のバックストーリーを読み取れますよね。
このカードをドット絵化するにあたって、砂嵐に耐えるキャラクターをアニメーションにしたいと考えました。
そうなると自然環境の厳しさを表現することが必須になります。
今回の挑戦項目・砂嵐の作画において考えたことをまとめました。
風速の強さは制作に追い風
技術的な話からはそれてしまうのですが。
カードイラストを見ると、キャラクターの正面から強い風が吹いていることが分かります。
マントが真っすぐに伸びてしまうほどの向かい風、登場人物たちの苦難がわかる絵ですね。
イラスト中の逆境と打って変わって、作画の観点から述べるとこれは追い風。
激しい風にさらされる動きというのは、往々にして中割りが少なくて済むからです。
もみくちゃになっている物体は次の瞬間には全く違う形になるので、中間コマで変化の過程を見せる必要がないわけですね。
動きのつながりがイマイチでも相手に不自然さが伝わりにくいのもグッド。
このように「これから取り組むのは楽な作品」だと自分に思い込ませるのは結構重要です。
本当に。
はためくマント
話を戻しましてキャラクター周りの作画です。
マント等の風になびくパーツのアニメーションがメイン。
3コマで構成しました。
コマ数が多いと動きが遅くなり、迫力がなくなります。
3コマに落ち着きましたが2コマ構成もアリだったかもしれません。
4コマまで増やすともっさりし過ぎて強風感が出ませんでした。
アニメーション速度を変更すればその限りではないのですが、そうまでしてコマ数を増やしたいかというと……。
砂塵
キャラクターの奥側は、吹き上げられた砂で見通しが悪くなっています。
この砂塵は煙を作画する時と同じ要領で制作しました。
本来であれば球の集合体をイメージしながら、個々の球体の移動経路がなんとなく分かるようにして動きをつけていきます。
しかし今回のような強風時は、次のコマの球体がはるか遠くに移動している状況になりますので、動線はあまり気にしていません。
モクモクしていればいいやという気持ちで。
風向きだけは少し意識し、右から左へ移動しているように見える程度に気を配りました。
風に舞う砂
砂嵐の渦中にいるわけなので、雰囲気を出すためにキャラクターの前面にも砂煙を加えたいところです。
(厳密にはこちらも砂塵ですが奥側と区別するために別称を使います)
先のようにモクモクさせると野暮ったくなるので瞬間的に吹き抜けるようにしました。
ベースの煙を描く
まずはベースの煙を制作します。
風を可視化するイメージで。
アニメなどを参考にできればいいのですが同じ状況を見つけられなければ、似た演出を参考にするのが良いかもしれません。
私は、一方向へ勢いのある風が吹くという点で爆風を参考に。
6枚の画像が完成。
砂煙が消えていくように見せたいので前半3枚を明るめ、後半3枚を暗めの色で塗り分けました。
暗い色ほど背景に溶け込んで見えることを利用する、ドット絵の定石みたいな技法です。
背景色に合わせて設定しましょう。
もちろん色だけだと苦しいのは百も承知なので、次工程ありきで考えています。
メッシュ化する
煙だけでは砂感があまりありません。
画面手前に配置することを考えれば砂粒を視認できるでしょうし、煙を挟んだ先のキャラクターがうっすら見えるはずです。
そこで煙をメッシュ状に加工。
網状ならば砂の粒子と半透明をまとめて表現できて一石二鳥というわけです。
メッシュ化にあたっては2種類のマスク画像を用意しました。
左が前半3枚用、右が後半3枚用です。
それぞれ煙に重ねた後にマスク部分を削除すると、メッシュ状になった煙が残ります。
メッシュの差により、残ったドットの密度が違っているのが分かるでしょうか。
後半3枚はドットの密度が小さいので、前半3枚と比べて空気中に霧散しているように見えるはず。
キャラクター画像と重ねてみましょう。
うん、砂っぽいのではないでしょうか。
キャラクター、後面の砂塵、前面の砂煙の3アニメーションを合成すると相乗効果により、なかなか激しい砂嵐が完成しました。
「ドット絵だけ」だと特殊効果に弱いのでどうなることかと不安でしたが、想像以上に砂嵐になってくれてほっとしています。
最近はドット絵に他ツールで特殊効果を加えた作品がはやりですが、ドット絵単体でもまだまだやれそう。
エフェクトを後付けするにしてもまずはちゃんとしたドット絵ありきですしね。
それでは今週はここまで。
次の記事でお会いしましょう。